アポロ11号

 アポロ11号が月へ行ったくらいにそれは快挙だった。ウィンターカップの結果と働きが評価された三井が関東大学バスケ二部リーグの大学からスカウトされて進学を決めた話が学年内をひそかに駆け巡ったのはもうひと月前の話だ。三井自身が死ぬほど驚いたし親も担任も泣いていたが、本人が最も嬉しかったのは敬愛する恩師安西光義に喜んでもらえた事だった。
 この騒ぎを、人類が初めて月面に降り立った出来事と同列に扱ったとしても誰も異を唱える者はいないだろう。少なくとも湘北高校のごく一部では、奇跡を起こした男として一時爆発的に三井は話題をさらった。ゲン担ぎに彼の持ち物を欲しがる受験生まで居たくらいだった。
 一人だけ、「きっとこうなるって思ってた」と偉そうに云ってこの快挙にも動じなかった人物が居た。今日、その人物は様々な思惑との攻防が待ちかまえていて多分忙しい。けれど、忙しくたってなんだって、もうすぐそこの扉を開けるだろう。


 寒くて屋上に出られない時の三井の定席は、空いている事の多い図書準備室だ。
 狭くて落ち着くし、背が低い作り付けの棚が椅子代わりにちょうど良くて気に入っている。カーテンを開けて斜めに座れば、窓の外がよく見えた。今日も特に変わり映えのしない校庭を見下ろしながら、行きにコンビニで買ってきたおにぎりとパンを広げて三井は腰かけていた。
 一つ目のおにぎりを食べ終える頃、扉が静かに開いたのでゆっくりと振り返れば、後輩の流川が大きな体躯を滑り込ませて部屋の中に入ってくるところだった。
「おう。逃げてきたのか?」
「うす。ナニカラ?」
「女子に決まってんだろ、常識で考えれば」
「別に追われてねえ。そんなコトより、今日はホントに部活来る?」
「行くに決まってんだろーが。準備してきた」
 三井が即座に返すと、流川は目を細めて頷いた。その整った顔に滅多にない喜色を薄く浮かべて、彼は三井の元へ近づいてくる。
 自分が久しぶりに部活に出るくらいで後輩にそんな珍しい表情をさせた事に、三井は秘かに高揚した。しかし、高一・高二と捻くれたまま育ってしまった三井は、ここで微笑み返してやるほど素直な性格はしていない。だから、感情を押し隠して平常時と同じように昼食を続けた。飲み物は、紙パックのイチゴ牛乳。おにぎりは、たらこと昆布と唐揚げのセット。パンはヤマザキのランチパックと焼きそばパン。
 流川も三井の隣に並んで座り、同じように昼食を広げた。彼は家から持ってきた弁当だった。
「先輩、来たばっか?」
「そう。午後から補習だっつったろ」
 廊下の自分のロッカーにバッシュと練習着が入っている。夕べ、それをまとめてスポーツバッグに入れている時はなんだか懐かしい感じがした。肝心の勉強道具の方をあやうく入れ忘れそうになってしまったけれど、寝る前に思い出してちゃんと追加した。
「部活終わった後、ワンオンの相手してほしーんすけど」
「いーぜ」
 部活を引退したというのに、それどころかもうすぐ卒業するというのに、どうしても自制できなくてときどき三井は体育館にふらふらと出向いた。もう進路は決まっているのだから、やろうと思えば部活に参加する事は可能なのだ。後輩の指導という名目なら、宮城に追い出されることもないだろう。けれど、二月に入り三年生が自由登校になってからは久しく体育館から足が遠のいていた。
 大学受験を免れた三井だが、今までろくに勉強をしてこなかった彼のような生徒たちには親切にも補習授業が開かれていて、三井は週に何度かは学校へ行く。大半が午前中の授業だったので、部活が始まるまで学校に残っている程ヒマではなかったが、今日は珍しく補習が午後からで、部活に参加するにはちょうど良かった。
 夕べ、それを流川に電話で連絡した。昼飯はどうするのかと訊かれた時はまだ考えてないと彼に答えたのだが、結局三井は学校で食べる事にした。
 つまり、特に約束はしていなかった。
 居場所をわざわざ伝えなくても、流川は三井がどこで過ごすのかをどうせ知っている。
「おまえ今日、アレ貰った?」
 顔を覗きこみながら三井がからかうように云うと、不機嫌そうに流川は眉を寄せた。多分、アレと云えば通じただろう。いくら流川がアレにまったく興味がなくたって、アレの出現場所はいくらでもある。郵便ポスト、学校の靴箱、机の中。
 後はなんだ……三井はしばし考える。待ち伏せや呼び出しで直接渡されるパターンが王道か。
「朝、家出る時に、自転車のカゴに入ってた」
「そう来たか」
 朝練よりもだいぶ早く学校に出て来て自主トレをする流川の朝は早い。
 三井は想像する。家を出る前にカゴに入っていたという事は、相当早い時間にその女は家に来たということだ。その行為に透けて見える執着心のようなものが、少々怖い。そういうシチュエーションでアレを貰えて流川が羨ましいとは、さすがに三井も感じない。
「住居侵入罪」
 苦々しい顔で流川が云った。
 三井は何度も流川の家に遊びに行ったことがあるので、流川の自転車の定位置が駐車場の奥の玄関に近い場所だと知っている。庭には門も塀もあるけれど境界がすべて囲われているわけではないので、敷地内に入ろうと思えば誰でも容易く入れる構造ではあった。
「まあ、そー云うなって。んで、それ結局どうしたんだよ。どーせ食わないんだろ」
「来る途中の、コンビニのゴミ箱の中」
「マジかよ……」
 恐ろしい話だ。流川なら、貰ったアレをゴミ箱にシュートするくらいなんてことはない筈だ。技術的にではなく、精神的にという意味だ。三井は、自分がその女の立場でなくて本当に良かったと心から思った。
「あとは? まさかそんだけってことねえよな?」
「……下駄箱ん中と、机ん中」
「すげーな。で、それはどうなった?」
「購買の前の、ゴミ箱。蓋付いてて中が見えねーから」
「捨てまくってんな」
「勝手に置いていかれても困る」
「まー、それはそうかもしれねえけどさぁ」
 第三者の三井からすれば、無駄なやり取りをしているようにしか見えない。
 大体、こんな奴にアレを渡すこと自体、意味がなくて馬鹿げているのだ。こいつは甘いものはほとんど食べないし、そもそも知らない人間から物を貰って喜んだりはしない。流川の事が本当に好きだというのなら、女の側だってそのくらいはリサーチするべきだ。
 それなのに、彩子の話によれば毎年流川の元には大量のアレが集まってくるらしいのだ。中学時代からそうらしい。一体どうなっているのか。見返りなんて一切期待出来ないにも関わらず、だ。
 もっとも、自己満足な結果に終わる事は初めから想定した上で女子たちは行動しているのかもしれない。とにかく押し付ける事さえ出来れば、ほぼ目的は達成しているのだ。という事は、流川が貰った物をどう扱おうと、多分どうでもいい事なのだ。どうせそんなところまでは見届けられない。彼女たちが欲しいのは、渡したという満足感だ。
 複雑な女心と菓子メーカーの思惑と流川の気持ちを想像し、三井は自己完結して、ハアと溜め息を吐いた。三井だって中学の頃はバスケ部のエースだったのでモテまくった。アレもコレも沢山貰っていたし、数を競っていた事もあるけれど、一応全部中身まで確認して返せる分はお返しもしていた。流川は今まで一度もお返しなんてした事がないと云う。きっと本当に煩わしいとしか感じていないのだ。本人の気持ちなんてお構いなしに一方的に想いを押し付けられるばかりの流川が、なんだか気の毒にすら思えてきた。
「世の中うまくいかねぇもんだよな〜。欲しがってる奴は沢山いんのに」
「俺は要らねえ。メイワク」
「その台詞、男ばっか居るトコで云ってこいよ。まあ、俺も人の事なんか別にどうでもいいんだけどさ。つうか俺、こんな日に学校来る羽目になって参った。後で部活ん時に宮城になんて云われるか分かんねえもん」
「なに云われる?」
「だからあ、こんな日に学校来たらさ、アレ欲しさに来たんだろって云うぜあいつ」
「先輩、欲しいの?」
「そんな話してんじゃねえだろうが。もう、三年にはこんなイベントあんま関係ねえよ。だってみんな登校してねえもん。そもそも女子がほとんど来てねえっての。でもさ、男は今日結構来てる奴多いんだよな。やっぱ少し期待してんのかな? 俺はそういうんじゃねえのに、同類と思われたらムカつく」
「彩子先輩が、先輩にくれるハズ」
「え、俺に? マジ?」
「先輩の分も用意してるってこの間云ってた。さっき朝練の時に、今日先輩が部活来るって教えといた」
「へえ〜……別に俺、そんなの要らねえのに」
 久しぶりに会うマネージャーの姿を思い浮かべて、三井は少し嬉しくなった。自由登校だから貰う機会がないといくら言い訳をしたところで、流川のように家に直接来る女だってこの世には存在するのだから、やっぱり言い訳は言い訳でしかない。たとえマネージャーの義理でも、まったく無いよりは良い。男心は得てして単純構造だ。ただし流川のような特殊な人種を除く。
「彩子先輩に貰えんのが、そんなに嬉しいんすか」
 自分で云い出しておいて、流川はどこか不満げな口調になった。
「う、嬉しくねえよ、ベツに。要らねえのにって、いま云ったろーが!」
 後輩がゴミ箱行きにしているというのに、ここで浮かれるのは惨めだ。嬉しさが態度に滲み出てしまったのを誤魔化すように、三井はイチゴ牛乳を一口飲んでから、封を切っていない焼きそばパンを流川の膝に乗せた。
「ンなコトより、たぶん食い切れねえから、コレおまえにやる」
 手っ取り早く話を変えた。いつもの癖で欲張って買ってきたものの、午前中は遅くまで寝ていただけだし、疲れていないので食欲があまりなかった。
 いつもならば迷いなく受け取るだろう流川はしかし、しばらく焼きそばパンに手を出さず黙ってそれを見つめた後、三井に云った。
「これより、そっちのでイイ」
「ああ?」
「そっちのパン食いたい」
 焼そばパンを余所に、流川が顎で指し示した先にあるのはランチパックだった。焼そばパンに目がない流川の言葉とは思えない。異常な事態だ。
「おまえ、これがなんだか分かってんのかあ?」
 三井はランチパックのパッケージを掴んで流川の目の前にぐいと突き出した。これは流川の好みじゃない。おそらく甘いのだ、相当に。
 正式な名称は『ランチパック たっぷりミルクチョコクリーム』。
 その名の通り、たっぷりとチョコレートクリームが詰まった柔らかな四角いサンドイッチが二つも入っているという、恐怖のカロリーを持つシロモノだ。
「よく読め。こんなの甘くて、おまえ食えないだろ」
「字読めるから知ってる。それがイイ」
「はあ、本気かよ? 無理だって」
「へーき」
 これは三井が自分のために買ってきたものだ。流川にやろうと思っていたわけではない。
 いくら今日がアノ日だからって、そして、自分達が付き合い始めて半年が経過した恋人同士だからと云って、アレを食べない流川にアレを押し付けようだなんて三井はまったく意識していなかった。
「チョコなんか嫌いだろーが。これは俺が食うの」
「先輩が手で食べさせてくれんなら、一枚ぐらい食えると思う」
「ハ? ナニを云いだしてんだおまえは。バッカじゃねーの?」
 なんだってそんなコトを男同士で。しかも、学校の中でそんなアブナイ真似が出来るわけがない。
 怖気づいた三井は慄いた。自分は流川と違って少しは常識があると自負している。三井の中の常識では、流川の希望は完全にNGだ。けれど流川はどうも本気らしく、三井の手から勝手にランチパックを奪い取りパッケージを破った。
「あっ、コラてめー返せって! 大人しく焼そばパン食ってろ」
 取られたら取り返す、それがスポーツマンの鉄則だ。三井は流川が掴んだサンドイッチを即座に奪い返す。こうなったら先に食べてしまおうと思い齧り付きかけたところで、三井を上回る抜群のオフェンス力を発揮した流川が機敏に動き、三井の手首を掴んだ。
「やめろ、放せってば!」
「ぜってー貰う」
 云ったそばから流川は自分の口元へ三井の手を強引に引き寄せて、白いサンドイッチの端っこに食らいついた。阻止しようにも力が及ばず、三井はそれを止められなかった。自分の手から後輩が力ずくで一枚のパンを食べきるところを、為す術もなく見ている事しか出来なかった。
「クリーム多すぎ。あと、スゲー甘い」
「だからそう云ったろ! ったく、信じらんねえ」
 強引に食べておいて流川が文句を云うので、三井は呆れた。
「もう一枚は絶対やらねえ。俺が食うからな」
 ようやく解放された手で残ったサンドイッチを取り出して齧った。ミルク多めで仕上げられたチョコクリームは確かに甘く、『たっぷり』という名に恥じない十分な量が詰まっていた。一口齧っただけでクリームが溢れ出る。
「あー、クリーム確かに多いな。無理してんじゃねえよ、バカ」
 言葉の後半は、製パンメーカーの企業努力に対して云ったわけではなかった。好きでもないチョコクリーム入りのサンドイッチを完食したバカな後輩へ向けたものだ。今朝からずっと、貰ったチョコをゴミ箱に捨てているような男だ。その同じ手で三井から甘ったるいサンドイッチを奪って食べるなんて、絶対にバカな行為だと断言出来た。
 それでも、三井は面映ゆくてたまらなかった。おそらく、流川にしては前代未聞の行いだ。それが容易に想像出来るから、胸の奥は穏やかなままではいられない。
(ズリーだろ、こいつ)
 けれど、やっぱり素直に出来ていない三井はこの気持ちを嬉しいなんて言葉には変換出来ないので、代わりに憎まれ口を叩いた。
「おまえのために買ってきたわけじゃねえんだからな」
 片手でサンドを齧りつつ、窓の外に視線を移しながら身体を捻った姿勢で呟いた。外を見て心を落ち着けようと思った。パンの間から溢れたチョコレートクリームが、指先に付着する。ティッシュ持ってねえなあと頭の片隅で考えたところで、黙ってじっと様子を窺っていた流川に再び手首を掴まれた。アッと声に出す間もなかった。三井の人差し指は流川の薄い唇の隙間に勝手に咥えられ、指を汚したクリームは丸めた舌に舐め取られる。
「ちょっ──バカっ、なにしてんだよ」
 明るい日差しが射し込む窓の外には目の覚めるような青空が広がっていた。けれど、狭い準備室の中はとても健全とは云い難かった。流川の舌はそれはそれは丹念にチョコクリームを奪っていった。こんなところを人に見られたら軽く死ねるなと、三井は思う。
 指に付いたチョコまで残らず回収するほど自分の恋人がバレンタインを意識していたとは思ってもいなかった。三井がそれ以上もうダメだと云って抵抗を見せるまで、流川はそうしてひとしきり指を舐めていた。動物みたいに遠慮がない彼の行動に三井は呆れながら、学校という公共空間の中、至近距離で自分の指を咥える男を見て多少の興奮を覚えてしまったその事実が口惜しかった。
「そんなに俺からチョコ欲しかったんなら、もっと前にそう云えよな。チロルチョコぐらいなら用意しといてやったのに」
 悔し紛れに上から目線で云ってみたが、指を放した流川は唾液に濡れた自分の唇を舌で舐めながら平然としている。
「でも、云わなくてもちゃんとあった」
 流川は三井が買ってきたランチパックがバレンタインのチョコ代わりだと完全に思い込んでいるようだ。
「だから〜話聞いてたか? これは俺のだったんだよ、チョコ入ってんのは偶然なんだって。バレンタインとか俺が考えるわけねえだろ!」
 三井は断固主張した。
「でも先輩、こーいうのいつもは買わないクセに」
 確かに三井はいつもランチパックの『たまご』ばかりを買っている。どこの店にも置いてあるからだ。しかし、チョコレート自体は別に嫌いじゃない。
「今日はたまたまコレが安かったんだっつの! 三十円引きだったんだよっ」
「安くたって買わないクセに」
「買う時もあんだよ」
「買わない」
「本人が云ってんだけど?」
「買ってんの見たコトねえ」
「うるせえなもう……黙って焼そばパン食えよ」
 誓ってもいい。決して流川に食べて貰おうと思ってわざわざチョコクリーム入りを買ってきたわけじゃない。確かにいつもはおかず系の具ばかり買っているが、安かったんだから仕方がない。親に貰った昼代がギリギリで、より安いパンを購入しただけの事だ。
 もっとも、コンビニのバレンタインコーナーの過剰な演出が三井の無意識下にどんなふうに作用したのかまでは本人にも分からない。検証出来ないから、真相は三井にも誰にも永久に謎のままだ。
 押し問答をいつまでもしたところで、意味はない。三井は窓を背にして真っ直ぐ座り直し、食べかけになっていたランチパックを二口ほどで完食し、牛乳で喉の奥へと押し流した。
 てっきり、後輩は喜んで焼そばパンも貪り食うのだろうと思っていたが、その気配がない事に三井はしばらくして気がついた。弁当は、あらかた食べ終わっていた筈。違和感を覚えた三井が空になった紙パックを手で潰しながら流川へ顔を向けたら、目の前に彼の顔が急に迫ってきたのでびっくりして目を見開いた。押し止める間もなく、後輩の唇が自分のそれに触れてくる。
 三井は反射的に目を瞑り、理性をどこかへ押しやって流川を受け入れてしまった。さっき瞬間的に高まった興奮が、まだ完全には冷めていなかったせいもあるだろう。それに、この部屋でこの後輩とキスするのは初めての事じゃない。
 軽く触れ合っただけでは終わらず間を割って侵入してきた流川の舌は、最初だけはまあまあ大人しくしていたけれど、やがて三井の口内を好き勝手に蹂躙し始めた。チープなチョコレートクリームの味が唾液に混じり、口の中に広がった。頭の奥がほんの少し蕩けた頃、流川がようやく離れて、何故だかしたり顔で一言云った。
「イチゴチョコの味」
 それはイチゴ牛乳とチョコが混ざったからだ。
「アポロ味だな」
「あぽろってナニ?」
「おまえ、アポロチョコレートを知らねえの? ガキの頃食わなかったか?」
「チョコはあんまり食べなかった」
「そういうイチゴ味のチョコがあんの」
「チョコは苦手だけどイチゴは好きっす」
 流川は本当に三井からのチョコ以外には興味がないのだ。
 三井はその事に気を良くし、そして子供の頃によく食べた富士山みたいな形をしたピンク色のチョコレートを思い出して笑った。
「なつかしー。イチゴが嫌いじゃねえなら、来年のバレンタインはおまえにアポロやるわ。決まり」
 三井は来年のアポロ計画を打ち立てた。ピンク色のチョコレートは流川にはまったく似合わないけれど、きっと自分が渡せば彼は何色のチョコでも食べるだろう。女子が思い悩んで買ってくるようなリボン付きの華やかなチョコなんてとてもじゃないけれど買えないが、アポロを買うくらいなら気楽だ。
「ソレ今年はくんねーの?」
「どんだけ欲張んだよ。今年はこれで我慢しろ」
 流川の貪欲さには誰も勝てないだろうと三井は思う。まだ物足りないと不満げな後輩に、今度は三井からキスした。
 もちろんその後、焼そばパンも結局は流川のモノになった。

おわり
★ちょこっと一言
ランチパックに「たっぷりミルクチョコクリーム」なんて無いですから〜。
なんだか商品名出しまくってしまった。